戦後最大の怪事件
文豪の檀一雄は、兵役で負ったトラウマに悩まされていた。そんなある日、檀一雄にさらなる悲劇が…。
主要人物
檀 一雄
太宰 治
第零話 プロローグ
檀 一雄
何者かになれると信じていた、あの時代をふと思い出す。
高い天井と木の匂いに満ちた帝大図書館で、俺は太宰の後ろ姿を追っていた。目の前の謎は、創作の微熱を容易く芽吹かせ、真実は梯子を掛ければすぐ掴める高さにあると、本気で思っていた。あの頃の俺たちは、真実を掴みさえすれば、それがそのまま文学になると疑わなかったのだ。
太宰 治
「聞いて回ると、いろいろ出てくるもんだねぇ」
太宰は学生帽の奥から目を光らせる。俺たちは、盗まれた“赤い洋墨(インク)”の手紙を追い、学内を歩き回っていた。
太宰 治
「もし犯人が、依頼主の女学生と顔見知りだったとしたら……そこに滑稽な人間の真実が浮かぶと思わないかい?」
檀 一雄
「軽率なことを言うなよ。依頼主は本気で困ってるんだ」
人が人へ書いた文字が、当人に届かない。そのことが、作家の端くれとして我慢ならなかった。真実を解き、正しく届ける。その行為が俺を迷宮の天井から押し出し、黒い活字へと導くと信じていた。
命すら賭けてもいい気分だった。
ノートを閉じる音を、わざと太宰に聞かせる。
「手紙はまだ生きてる。俺たちなら必ず掬い出せる」
太宰は振り向き、薄く笑った。
太宰 治
戦闘、開始。
――― だね」
檀 一雄
……あれから、何年が過ぎたのだろう。
日本は敗れ、信じていた価値は音もなく裏返った。正しさも誇りも行き場を失い、俺は激動の渦に呑まれながら、ただ生き延びていた。
ここまでのおさらい
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檀 一雄
だん かずお桜桃探偵舎で太宰と盗まれた手紙の謎を追い、敗戦後は激動を生き延びた。
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太宰 治
だざいおさむかつて太宰と共に「桜桃探偵舎」という探偵ごっこをしていた。
