太宰治と檀一雄のバディ探偵ミステリー
第二章

中原中也と赤い手紙の謎

主要人物

第七話 赤い洋墨の手紙⑤

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太宰 治

「まず一人目。赤インクの手紙を読んで笑っていた学生。——まあ、反応としては不自然じゃないが、少し目立ちすぎたかな。二人目。古書屋の学生。図書館の落とし物を漁って、売りさばいてるって噂だ。三人目。図書室の管理人。学生の私物、勝手に没収してるらしい」

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檀 一雄

俺はページをめくり、先ほどのメモの中から一つの情報を指で示した。

「それからもう一人。手紙を燃やそうとしていた人物。声をかけられて、逃げたそうです。慌てていたというのが気になる」

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太宰 治

「……そして、依頼主をつけ回している人物がいるかどうか、だな。直接的な動機があるなら、その辺りに絞れるかもしれない」

彼は続けた。

「依頼主の彼女、家柄もいい、成績も抜群。見た目も穏やかで、そりゃあ嫉妬される要素は充分だ」

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檀 一雄

その言葉に、俺も頷いた。

「“得ている者”ってのは、得た分だけ、周囲に狙われる。人の感情なんて、そんなもんさ……。で、手紙。まだ“生きてる”可能性はある。情報が正しければ、燃えかけて捨てられたか、あるいは、まだどこかに隠れてるか」

その時、後ろから矢田が声をかけてきた。

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矢田喜美雄

「あの、檀さん……実は言いそびれていたことがあるんですけど……」

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「彼女のお相手の教授というのは……妻子持ちなんです」

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檀 一雄

「何だって?」

俺は思わず声を上げた。

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太宰 治

「なるほど、だから依頼主はあそこまで深刻に」

太宰が小さく頷いた。

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檀 一雄

「矢田君、どうしてそんな大事なことを黙ってたんだ」

俺が問いかけると、矢田は申し訳なさそうに目を伏せた。

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矢田喜美雄

「すみません。彼女の気持ちを考えると……どうしても口にしづらくて……」

太宰が、少し肩をすくめながら呆れて言った。

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太宰 治

「きみ。手の掛かる男の真似を僕たちの前でやって、どうするんだい?」

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矢田喜美雄

「す、すみません……」

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矢田は、反省した様子で俯いた。

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檀 一雄

俺は、メモを握りしめながらゆっくりと言った。

「しかし、そうなると一つ、有力な動機の線が見えてくるね」

俺が言うと、太宰が短く「うむ」と頷いた。

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矢田喜美雄

「……教授を貶めるために、たまたま見つけた手紙を利用する、ですね?」

矢田の声には、苦々しさと覚悟がにじんでいた。

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檀 一雄

「あるだろうな。学内の派閥争いは、根が深い」

俺が言うと、太宰がポケットに手を突っ込みながら呟いた。

その日の午後。構内の聞き込みを終えて、俺たちは正門を出て、通りの陽を浴びながら歩き出した。

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ここまでのおさらい

  • 太宰 治サムネイル

    太宰 治

    だざいおさむ

    聞き込みの情報を整理し、依頼主への嫉妬が事件の動機である可能性を指摘した。

  • 檀 一雄サムネイル

    檀 一雄

    だん かずお

    教授が妻子持ちであると知り、手紙が派閥争いに利用される動機の線を見出した。

  • 矢田喜美雄サムネイル

    矢田喜美雄

    やだきみお

    「相手の教授が妻子持ち」であるという重要な事実を隠していたことを打ち明けた。

ここまでの用語解説

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    がくないのはばつあらそいは、ねがふかい学内の派閥争いは、根が深い

    当時の東京帝国大学では、教授ごとに「派閥」があり、それがとても強い力を持っていました。どの教授の研究室に入るかで、成績だけでなく、将来の進路や就職、留学のチャンスまで左右されたのです。そのため、学生同士だけでなく、教授同士も水面下で競い合い、ときには相手の評判を落とすような噂や失敗を利用することもありました。恋愛や手紙といった本来は個人的なことも、派閥争いの道具にされる可能性があったのです。

    檀の言う「根が深い」とは、勉強の場であるはずの大学が、人間関係と権力争いに強く縛られていた、そんな時代の空気を指しています。